企業が備えるべき防災備蓄品の目安と管理ポイント
地震・台風・豪雨など、いつ起きてもおかしくない自然災害。企業にとって「備蓄」は、従業員の命を守り、事業を継続するための“最低限の責任”です。特に被災直後の72時間は、外部支援が届かず、自力で生き延びる時間とも言われています。
中小企業(従業員200名規模)を想定し、「何を」「どれだけ」「どう管理するか」を実務的に解説します。
なぜ備蓄が重要か ― 被災後72時間を乗り切るために
大規模災害発生時には、物流網が途絶え、救援物資や燃料が届くまで平均で3日(72時間)かかるとされています。
この間、社員の安全確保と事業継続を図るには、社内で最低3日分の備蓄品を確保しておく必要があります。
特に企業の場合は、
- 社員が社内で一時滞在(帰宅困難)する可能性が高い
- 従業員数が多いため、支援物資がすぐに行き渡らない
- 顧客対応・インフラ維持など、事業継続責任がある
といった理由から、家庭よりも多めの備蓄が求められます。「従業員一人ひとりが安心して働ける環境を守る」ことが、企業防災の第一歩です。
社員数別に見る必要量と優先順位
備蓄は「全員分を一度に完璧に揃える」必要はありません。段階的に、優先順位をつけて整えることが現実的です。
■ 基本の目安:1人あたり3日分(最低限)
| 品目 | 1人1日あたりの目安 | 3日分の合計 |
|---|---|---|
| 飲料水 | 3L(500ml×6本) | 9L |
| 食料(保存食) | 3食分(約1,000kcal/日) | 9食分 |
| 簡易トイレ | 5回分 | 15回分 |
| 毛布・アルミブランケット | 1枚 | 1枚 |
| マスク・除菌用品 | 適量 | 各3枚以上 |
これを基に、たとえば従業員200名の企業であれば、
- 飲料水:約1,800L(500mlペットボトル×3,600本)
- 保存食:約1,800食分
- 簡易トイレ:3,000枚程度
が一つの目安となります。
優先順位の考え方
- 命を守る備え(水・食料・衛生用品)
- 避難・滞在を支える備え(毛布・簡易トイレ・照明)
- 情報を得る備え(ラジオ・モバイル電源・通信機器)
最初に「①命を守る備え」を整えることが最優先です。次に、滞在環境や情報収集のための備蓄を計画的に追加していきましょう。
実際に備蓄が役立った企業の事例
複数の保管場所に分散して、社員全員がすぐ動けた
地震発生時、エレベーターが停止し、一部のフロアでは移動が困難に。しかし、防災備蓄品を各フロアごとに分散して保管していたことで、どの部署の社員もすぐに水・食料・照明を確保できました。「一か所にまとめておくよりも、分散備蓄が安全だ」と、後の社内報にも掲載されたそうです。
期限切れを防ぐ“更新サイクル”が、非常時にも活きた
防災備蓄を年1回入れ替える「更新サイクル」を設けていた企業では、災害時にすべての保存食と水が期限内・使用可能な状態でした。在庫チェックを兼ねて普段の訓練で試食会を行っていたため、社員が味や使い方を知っており、慌てず落ち着いて対応できたといいます。
余剰備蓄を地域へ寄贈し、信頼関係を築いた
賞味期限が近づいた保存食を地域の福祉施設へ寄贈する仕組みを整えていた企業では、実際の災害時にもそのネットワークが活かされ、避難所との連携や物資提供がスムーズに行えました。「日常の防災活動が、地域の信頼につながった」と担当者は話しています。
どの企業の事例にも共通しているのは、「備蓄を形だけで終わらせず、日常的に運用していた」という点です。日頃からの小さな工夫や管理の積み重ねが、いざという時の大きな安心につながります。
防災備蓄リストの作り方
保存食・水・衛生・通信機器などをカテゴリー別に管理企業では、以下の5カテゴリに分けて備蓄リストを作成すると、整理がしやすくなります。
① 飲料・食料
- 飲料水(500mlまたは2Lペットボトル)
- アルファ米・レトルト食品・缶詰・栄養補助バー
- 使い捨て食器・割り箸・紙コップ
ポイント: 賞味期限が2〜5年のものを選び、社員のアレルギー対応も考慮。
② 衛生・医療用品
- 簡易トイレ、消臭袋、ウェットティッシュ、アルコールスプレー
- マスク、手袋、救急セット、生理用品
ポイント:特にトイレ問題は深刻です。社員数×1日5回分を確保しておくと安心です。
③ 寝具・防寒用品
- アルミブランケット、毛布、簡易マット
- カイロ、防寒シート
ポイント: 冬場の停電や暖房停止に備え、体温保持用品は多めに。
④ 情報・通信・照明機器
- 手回し式ラジオ、懐中電灯、ランタン
- モバイルバッテリー、発電機、延長コード
ポイント: USB充電式のLEDランタンなど、多用途のものが便利です。
⑤安全防具(ヘルメット・防災頭巾など)
災害時、落下物やガラス片から頭部を守るヘルメットは、企業防災上の義務的備えとされています。
労働安全衛生規則では、崩落や転倒の危険がある作業場では保護帽の着用が義務付けられています。
オフィスでも、地震発生時に備えて社員一人につき1つのヘルメットまたは防災頭巾を常備しておくと安心です。
収納式・折りたたみ型など、省スペースで保管できるタイプを選ぶと運用しやすいでしょう。
⑥ その他(生活・業務継続用)
- 軍手・ガムテープ・工具・ブルーシート
- 名簿・安否確認カード・衛星電話・Wi-Fiルーター
ポイント: 安否確認体制(LINEグループや社内アプリ)との連携も重要です。

備蓄の保管・管理・ローリングストック術
災害時に備えた物資をいざ使おうとしても、「どこに保管してあるかわからない」「賞味期限が切れていた」では意味がありません。備蓄は“持つ”だけでなく、“管理する仕組み”を整えることが重要です。
ここでは、保管場所の工夫や管理のコツ、ムダなく使い続ける「ローリングストック術」を紹介します。
保管場所の工夫
- 倉庫・会議室の一角など、「地震で倒壊しにくい低層階」にまとめて保管
- 水や食料は湿気・高温を避けた場所に置く
- 物品ごとにラベルを貼り、「誰でも取り出せる」状態を維持する
オフィスの棚やロッカーに「1人1セット分」を個人配備しておく方法もおすすめです。個人配備にすることで、災害時に自分の分をすぐに取り出せるだけでなく、備蓄場所が分散されるため、倉庫が使えなくなっても対応しやすくなります。
ただし、配布時には次のような点に注意しましょう:
- 中身の統一性を保つ:全員分を同じ内容でそろえることで、不足や偏りを防ぐ。
- 定期点検のルール化:年1回の防災訓練などに合わせて中身を確認・更新する。
- 保管環境の確認:ロッカー内の温度・湿度に注意し、食品類は高温多湿を避ける。
小さな工夫ですが、「自分の命を自分で守る」という意識づけにもつながります。
管理サイクル(年1回以上が理想)
- 賞味期限チェック
- 数量の棚卸
- 消費・補充(ローリングストック)
- 管理台帳の更新
管理責任者を総務部内で決め、毎年決まった月に点検すると習慣化しやすいです。
「ローリングストック」でムダなく運用
ローリングストックとは、「普段から食べたり使ったりして、使った分を補充する」備蓄方法のことです。
非常食や飲料水を特別なものとしてしまわず、日常生活の中で循環させることで、無理なく備蓄を維持でき、賞味期限切れや劣化を防ぐことができます。
非常食を定期的に社内イベントや防災訓練で試食すると、味や量の確認にもなり、社員の防災意識も高まります。
備蓄量の簡易早見表
| 社員数 | 水(1人9L) | 食料(1人9食) | 簡易トイレ(1人15枚) |
|---|---|---|---|
| 50人 | 450L(500ml×900本) | 450食 | 750枚 |
| 100人 | 900L(500ml×1,800本) | 900食 | 1,500枚 |
| 200人 | 1,800L(500ml×3,600本) | 1,800食 | 3,000枚 |
社員の命を守る「3日間の備え」が、企業の信頼を守ることにつながります。今日からできる第一歩として、自社の備蓄リストを見直してみてください。
よくある質問(Q&A)
まとめ|備蓄を“生かし”、防災を“仕組み”に変える一歩を
防災備蓄は、「買って終わり」ではなく「運用して生かす」ことが大切です。せっかくの備蓄品も、存在を知らなければ使えません。そのためには、社員全員が使い方や保管場所を理解し、いざという時に迷わず行動できる体制づくりが欠かせません。
たとえば、
- 年1回の防災訓練に「備蓄確認ワーク」を取り入れる
- 安否確認システムや緊急連絡の流れを共有する
- 「自分の命を守る行動」を体験を通じて学ぶ
こうした取り組みが、備蓄を“生きた仕組み”に変える鍵となります。
ガイアシステムの防災研修プログラムでは、企業規模・業種・課題に合わせたオーダーメイド型の防災研修を実施しています。「備蓄をどう生かすか」「有事にどう動くか」を、基礎から応用まで段階的に学び、実践力として身につけることができます。備蓄の整備を終えた今こそ、 “防災を文化として根づかせる”次のステップへ。社員と企業を守る体制づくりを、ここから始めてみませんか。
















