言い続けるべきか、それとも見守るべきか?― 部下育成の分岐点 ―

ガイアシステム専務・青木による連載コラム「仕事論」。本記事では、クライアントや研修の受講者から実際に寄せられた問いをもとに、現場で起きている課題に向き合っていきます。
部下に何度指導しても変わってくれません。これ以上、伝えると嫌われそうです。でも言わないと変わらない…
正直、どこまで踏み込むべきか分かりません。この場合、どうすればいいのでしょうか?
第4回のテーマは「部下が変わらないとき、上司はどう向き合うべきか」です。人は、なぜ変わらないのか。そして、上司はどこまで関わり続けるべきなのか。「しつこさ」と「育成」の関係を、構造から読み解きます。
部下が決めたことをやらないとき、上司は「しつこく」するべきか?
研修で、ある管理職の方からこんな質問を受けました。
「部下に改善点を伝えて、“やります”と言ったのに、またやっていませんでした。
何度も言うと嫌われそうです。でも言わないと変わらない。
正直、どこまで言うべきか分からないんです。」
私は少し間を置いて、こうお聞きしました。
「嫌われたくないんですか?
それとも、育てたいんですか?」
少し空気が止まりました。
でも、この問いこそが、大切なポイントだと感じたのです。
問題は「しつこさ」ではなく、「軸」である
多くの上司は、「しつこいと思われないか」を気にします。
しかし、問題はしつこさそのものではありません。
問題は、“何を基準に伝えているか” ではないでしょうか?
その場の感情なのか。
その日の機嫌なのか。
それとも、チームとして決めた基準なのか。
ここが曖昧だと、部下はこう感じてしまいます。
- 今日は厳しい
- 今日は何も言われない
- 結局、何が正解なのか分からない
これでは、人は育ちません。
育成とは、「何が求められているか」が明確であり、それが一貫している状態の中で初めて機能するからです。
「規範」ではなく、“自分たちの約束”にする
理論的には「規範」と呼ばれるもの。
しかし現場では、もう少し血の通った言葉の方が機能します。
・うちのチームで大事にしていること
・これだけは守ろうという約束
・私たちの勝ちパターン
言葉はシンプルで構いません。
大切なのは、「この基準で一緒に成長していこう」という合意であると思います。
ルールは縛るためにあるのではありません。
守ることで、自分自身が成長できるから存在しています。
ここが伝わっていなければ、指導は単なる押し付けになってしまいます。
人は、「分かっていても」すぐには変わらない
基準を決めても、約束をしても、人はすぐには変わりません。
ここで上司は、「なぜできないのか」を感情ではなく、構造で見る必要があります。
私はできない理由について、大きく3つに分けて考えています。
① やり方が分からない
これは、教えれば解決します。
何を、どの順番で、どのレベルまでやるのか。
曖昧さをなくし、具体的に示すことが大切です。
② 努力の仕方が分からない
ここが見落とされやすい部分です。
スキルが不足している状態で「頑張れ」と言うのは、支援ではありません。
必要なのは、「どう練習するか」を一緒に設計することです。
努力には必ず時間差があります。だからこそ、継続できる形を作ることが重要です。
③ やる気がないように見える
このとき、多くの上司は叱責を選びます。
ですが重要なのは、まず「聴くこと」ではないでしょうか。
何に納得していないのか。
何が不安なのか。
何が障壁になっているのか。
「やる気がない」のではなく、「意味を見いだせていない」ということも多くあります。
変化は、「習慣の上書き」で起きる
「分かっているのにできない」
これは意志の弱さではなく、多くの場合、習慣の問題です。
人は、長い時間をかけて今の行動パターンを身につけています。
だから、変化にも同じように回数が必要です。
私は研修でよく、こんな問いを投げかけています。
3ヶ月の間に、
3回しか指摘されなかった人と、
30回指摘され、その都度やり直した人。
どちらが変わるでしょうか。
答えは明確です。
習慣は、気づきと、やり直しの回数によって上書きされていきます。
「しつこさ」が信頼に変わる瞬間
ただし、ここに重要な前提があります。
「伝え方」です。
感情的に責める。
嫌味を込める。
人格を否定する。
これでは、関係は壊れます。
そうではなく、
「よし、もう一度やってみよう」
「ここまでできたのは前進だね」
というように、行動に焦点を当て、変化を支援する姿勢を持つことが大切です。
できていないことを責めるのではなく、
できるようになるプロセスに伴走する。
この姿勢が、育成の質を決定づけます。
好かれる上司と、信頼される上司は違う
嫌われたくない。
その気持ちは自然なものです。
しかし、好かれることと、信頼されることは同じではありません。
信頼は、一貫した基準と、向き合い続ける姿勢によって生まれます。
その場の空気で言うことを変えないこと。
できるようになるまで関わり続けること。
その積み重ねが、信頼になります。
最後に
約束を守らない部下に、「しつこく」するべきか。
答えはシンプルです。
感情ではなく、基準に基づいて、一貫して向き合い続けること。
人はすぐには変わりません。
だからこそ、変わるまで関わり続ける。
その覚悟こそが、リーダーの器をつくるのだと思います。
悩みながらも、前に進もうとすること自体が、リーダーとしての大切な一歩なのだと思います。

青木 佑介(Yusuke Aoki)
株式会社ガイアシステム 専務取締役
With+ウィズタス 教育研修事業 事業統括責任者
エグゼクティブコンサルタント
大学時代は、心理学・リーダーシップ論を専攻、2006年新卒で入社。人材総合コンサルタントとして、派遣・紹介・社員採用を通じた様々な企業サポートに従事。入社2年で50名が所属する大阪支社副責任者に抜擢。2008年、同グループのNPO法人の立上げに携わり、ソーシャルビジネスや企業CSRのコンサルタントとしても活躍。2009年、神戸本社にて教育事業部を立ち上げ、事業部の責任者を担いながら、自身も人財育成・組織マネジメントコンサルタントとして、年間100社、2000名、延べ約1万2千人の人材育成に携わる。自身の実体験から見出されたリーダーシップ論、組織マネジメント論は、数多くの経営者・リーダーから支持を受けている。最近では、従来の研修ベンダー会社では対応できない、企業の幅広いニーズに応え、社会のリーダーの輩出に数多く寄与する。2019年より同社専務取締役に就任。2020年同グループ会社である株式会社ガイアサイン専務取締役に就任。







