部下の「考えるスイッチ」が入るとき 一人の発想が、組織の構想へ育つ職場のつくり方

「部下が自分で考えない」「新しい提案が出てこない」と悩む管理職は少なくありません。
しかし、部下は本当に考えることが嫌いなのでしょうか。上司が良かれと思って答えを出し、
部下が考える仕事まで引き取っていることがあります。

私自身、専門外のロボット事業へ異動したことで、部下の考えを聞く意味が大きく変わりました。
そこで経験したのは、もともと職場にいた人たちの考えがつながり、誰も持っていなかった構想が生まれていく過程でした。

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なぜ、私は部下を「自分の手」のように使っていたのか

企業研修実施の様子(ガイアシステム)

私は長年、技術者として製品開発に携わってきました。
技術者には、複雑な問題を整理し、できるだけ早く正しい答えを出すことが求められます。知識と経験を蓄え、精度の高い判断をする。その力によって成果を上げ、周囲から評価されてきました。

私が方法を考え、部下が形にする

デバイス事業にいた頃の私にも、自分の専門領域について、ある程度の答えがありました。

・どのような実験をすればよいか。
・どこを確認すれば、問題の原因に近づけるか。
・次に何をつくり、どう評価すればよいか。

部下から相談を受ければ、考えの足りない部分や、次にやるべきことが比較的早く見えました。だから、私が方法を考え、部下に実験や評価を進めてもらっていました。

率直に言えば、当時の私は、部下を「自分の手」のように捉えていたのだと思います。私が考えたことを、高い技術力で形にしてくれる。実際、そのやり方で成果も出ていました。管理職が方向を示し、部下が着実に実行する。それが効率のよい組織だと考えていたのです。

考える力がないのではなく、考える必要がなくなる

しかし今振り返ると、私は部下の力の一部しか使っていませんでした。

実験し、評価し、形にする力は借りていました。けれど、一人ひとりが持つ経験や問題意識、発想を、十分に仕事へ活かしてはいなかったのです。

管理職が答えを持っていれば、自分で考えて伝えた方が仕事は早く進みます。部下も一から悩まなくて済みます。そのため上司は、答えを示すことを、部下を助ける行為だと考えます。

ところが、それを続けると、部下は少しずつ「上司の考えを理解し、正確に実行する人」になっていきます。

考える力がないのではありません。
考える必要がなくなるのです。

自分に答えがなくなったとき、何が起きたのか

企業研修実施の様子(ガイアシステム)

私の関わり方が変わったのは、専門外だったロボット事業へ異動したときでした。

それまで経験してきたデバイス事業とは、技術も市場も異なります。私なりに懸命に考えましたが、お客様がロボットに何を求めているのか、現在の商品や技術がなぜその形になっているのか、十分には分かりませんでした。

私の中に、すぐに示せる答えがなかったのです。
部下の考えが浅いのか。
それとも、私が知らないだけなのか。

それすら判断できませんでした。

聞くしかなくなって、初めて聞けたこと

だから私は、各分野のリーダーたちに聞くしかありませんでした。

「どんなロボットを世の中に出したい?」
「自分たちの技術で、何を実現したい?」
「その技術で、どんな世界をつくりたい?」

すると、それぞれのリーダーが、自分の夢を語り始めました。

日常の進捗会議では、現在のテーマや問題点は聞いていました。
しかし、その人が将来どんなロボットをつくり、何を実現したいと思っているのかまでは、十分に聞いたことがなかったのです。

ただ、話を聞くだけでは、私にはその世界を具体的にイメージできません。そこで、さらに尋ねました。

「なぜ、それを実現したい?」
「それができると、お客様にはどんな価値がある?」
「それが実現したら、その先に何ができる?」

私も理解したいから問いかける。相手も、自分の考えを伝えるために、さらに考える。
問いを重ねるうちに、本人の中でも、実現したいことの輪郭が少しずつはっきりしていきました。

問いを重ねるうちに、その場になかった発想が生まれた

企業研修実施の様子(ガイアシステム)

そこで私は聞きました。
「この案が、これまで形にならなかったのはなぜだろう?」

返ってきた答えは、大きく三つありました。

  1. 技術的には実現できても、コストや大きさの面で商品にするのが難しかったこと。
  2. 以前からやりたいと思っていたものの、周囲から止められ、進められなかったこと。
  3. 話し合う前には、本人の中にも、まだその発想がなかったことです。

ここから、議論の中身が変わりました。

以前からあった構想については、
「すべてを一度に実現しなくても、まず価値を確かめられる形はないか」
「以前は難しかったが、今の技術や、他業界で使われている技術を応用すれば、別の方法を考えられないか」
「他のリーダーが持つ技術と組み合わせれば、壁を越えられないか」

と、できなかった理由を説明する話から、実現する方法を探す話へ進んでいきました。

一方で、話し合う前には存在しなかった発想も、何度も生まれました。
一人のリーダーが自分の考えを口にすると、別のリーダーが言います。

「それなら、自分たちの技術を使えるのではないか」
「今まで別々に考えていたが、二つを組み合わせた方が面白い」
「お客様が求めているのは、その機能そのものではなく、その先にある価値ではないか」
最初から、誰かが完成した案を持っていたわけではありません。

一人が考えを話し、それを聞いた別の人が、自分の知識や経験を重ねる。そこにさらに問いが加わり、話し始めたときにはなかった考えが、少しずつ形になっていったのです。

聞くことは、部下のためだけではなかった

私は、部下の成長のために、答えを言わずに待とうとしたわけではありません。
自分に答えがなかったため、聞くしかなかったのです。
ところが、聞いてみると、私には思いつかなかった見方や考え方が出てきました。

そこで初めて、部下の話を聞くことは、部下のためだけではなく、 自分一人では出せない答えに近づくためにも必要なのだと知りました。

どうすれば、職場の「考えるスイッチ」が入るのか

企業研修実施の様子(ガイアシステム)

こうした議論は、一度で終わったわけではありません。
一人のリーダーが自分の夢を語り、他のリーダーがそれぞれの知識や経験を加えていく。
翌週には、また別のリーダーが自分の夢を語る。そんな対話が、半年から一年ほど、ほぼ毎週続きました。

進捗を知ることと、その人が描く未来を知ることは違う

それまで各リーダーは、隣の人が現在何に取り組んでいるかは知っていました。
しかし、その人がどのようなロボットをつくり、どんな世界を実現したいと思っているのかまでは、知らなかったようです。

進捗を知ることと、相手が描いている未来を知ることは違います。

互いの目指す世界を知ると、
「自分の技術が役に立つかもしれない」
「この二つを組み合わせれば、別の価値が生まれるかもしれない」
「この人が実現したいことを、自分も一緒に考えてみたい」という関係が生まれました。

私が特に印象に残っているのは、リーダーたちが、考えること自体を楽しみ始めたことです。

会議の時間だけ考えるのではありません。別の仕事をしているときにも、ふとアイデアが浮かぶ。
次の議論に向けて、自分なりの考えを持ってくる。誰かの発言を聞き、自分のテーマとのつながりを考えるようになる。

考えることが楽しくなるのは、一人でよい答えを出せたときだけではありません。
自分の考えが誰かに受け止められ、別の人の知恵とつながり、自分一人では思いつかなかったものへ育ったとき、人はさらに考えたくなります。

部下から「考える楽しみ」を奪っていないか

海野講師(企業研修・ガイアシステム)

現在、私は研修講師として、管理職や社員の育成に携わっています。

ある管理職研修で、受講者に尋ねたことがあります。
「皆さん、考えることって、好きではありませんか」

すると、多くの管理職がうなずきました。そこで私は、続けました。
「自分が頑張ってよい案を考えればいい、と思っているかもしれません。 でも、それは部下から“考える楽しみ”を奪っているのかもしれませんよ」

その瞬間、ほとんどの管理職が、はっとした表情を見せました。

部下のために考えていた。
仕事を早く進めるために答えを伝えていた。
それが、部下にとってもよいことだと思っていた。
けれど、自分が技術者として味わってきた「考えて、気づいて、形にする面白さ」を、部下には渡していなかったのかもしれない。

そのことに気づいた表情だったのだと思います。もちろん、毎回、部下から優れた案が出てくるわけではありません。考えが浅いこともありますし、最後は上司が判断しなければならない場面もあります。

まだ答えになっていない、小さな違和感を拾う

海野講師(企業研修・ガイアシステム)

それでも、上司が先に答えを言えば、部下の中にある、まだ答えになっていない違和感や気づきは引っ込んでしまいます。

「何か違う気がする」
「うまく説明できないが、このままではまずい気がする」
「別の見方があるような気がする」

そうした小さな感覚が誰かに受け止められ、別の人の知恵とつながったとき、それまで誰にもなかった技術や商品の構想へ育つことがあります。

管理職の仕事は、部下の代わりに、より多くの答えを出すことではありません。

一人ひとりの中にある考えを外へ出し、互いにつなぎ、誰か一人では思いつかなかったものへ育てていくことです。
人は本来、考えることが好きなのだと思います。
その考えが受け止められ、誰かの知恵とつながり、新しい可能性へ変わる経験をしたとき、職場の「考えるスイッチ」は入ります。

そして、多くの人のスイッチが入った組織は、一人の管理職がどれだけ頑張って考えても、 たどり着けない場所へ進み始めるのです。

著者プロフィール

海野 幸浩(うんの ゆきひろ)
ThinkDoor代表

大手精密機器メーカーで設計・開発に従事。電子デバイス世界シェアNo.1製品の開発リーダーを経て、デバイス事業で管理職に就任。その後、専門外だったロボット事業へ異動。自分一人では答えを出せない環境で、部下の知恵や発想を引き出し、組織で答えをつくるマネジメントへ転換。

設計部長・開発部長として100人規模の組織を統括。現在は社内講師として、管理職研修、キャリア研修、スキル研修を担当。技術者の思考特性と自身のマネジメント経験をもとに、「成果を上げながら、人が育つ職場づくり」をテーマとした研修を行っている
【資格】国家資格キャリアコンサルタント、CBL認定コーチ

海野講師|対応可能な研修テーマ一覧

※対象者の役割・経験、企業課題、実施時間に応じて、内容・演習・時間配分を調整しております

研修テーマ主な対象ねらい主な内容
新任技術系管理職研修設計・開発・生産技術・品質などの新任技術系管理職/管理職候補者技術者として自分で答えを出す働き方から、部下と周囲の力をつないでチームで成果を出す働き方へ転換する管理職の成果責任/技術者の思考傾向/任せる前の設計/アイデアの原石に光をあてる対話/異なる専門性との接続/兆候・進捗のずれの把握/挽回計画
製造業向け新任管理職研修製造・品質・生産管理・調達・技術・間接部門など、製造業の新任管理職/管理職候補者品質・納期・安全を安定して実現しながら、現場の違和感や改善の知恵を拾い、チームで成果を出す管理へ転換する管理職の成果責任/基準を徹底する力と知恵を引き出す力/判断できる枠組みを渡す任せ方/仕事を通じた育成/兆候・進捗のずれの把握/挽回計画
評価者・コミュニケーション研修技術系・製造部門の管理職・評価者目標・期待の共有から期中の対話、評価面談までをつなぎ、部下が評価の根拠と次に期待される行動を理解して前へ進める状態をつくる目標・期待の共有/評価の土台となる日常対話/事実と印象の切り分け/代表的な評価エラー/見えにくい貢献の把握/期中面談/評価面談/納得できない部下との対話
技術者キャリア研修若手・中堅・管理職候補・管理職・ミドル/シニア技術者専門性と役割の変化を整理し、次のステージでの自分の活かし方を考える強みの棚卸し/役割転換/専門性とマネジメント/経験の継承
OJT・部下育成研修OJT担当者・若手指導者・現場リーダー教えすぎず、放任せず、相手が考えて動ける関わり方を身につける判断基準を渡す/任せ方/相談の受け方/振り返り
現場リーダー研修班長・係長・小集団リーダー自分で抱え込まず、メンバーに役割を渡しながら成果を上げる役割分担/相談関係/会議・報告/小さな改善活動
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仮画像です

新任技術系管理職研修

専門性を活かしながら、自分で答えを出す働き方から、部下と周囲の力で成果を出す働き方へ

技術者は、自ら考え、早く正しい答えを出すことで評価されてきました。しかし、管理職になると、自分一人で答えを出すだけでは、チームの力を十分に活かせません。

この研修では、技術者として培った専門性を活かしながら、部下に仕事を任せ、未完成な気づきや考えを引き出し、異なる専門性につなぐ関わり方を学びます。あわせて、仕事の進捗や小さな兆候を捉え、遅れが生じたときに計画を立て直す力を身につけます。

想定対象

  • 設計・開発・生産技術・品質保証などの新任管理職、管理職候補者
  • 自分で答えを出し、仕事を抱え込みやすい技術系リーダー

研修ゴール

  • 技術者と管理職では、成果の出し方が異なることを理解する
  • 部下が判断して動けるよう、任せる前の条件を設計できる
  • 部下の未完成な気づきや考えを、早く評価せずに引き出せる
  • 異なる専門性をつなぎ、一人では出せない選択肢を生み出せる
  • 進捗のずれや小さな兆候を捉え、挽回計画を考えられる

カリキュラム例

  1. 技術者から管理職へ――成果の出し方を転換する
  2. 技術者の思考傾向と、管理職として陥りやすいこと
  3. 部下が判断して動ける「任せる前の設計」
  4. アイデアの原石に光をあて、異なる専門性につなぐ
  5. 兆候と進捗のずれを捉え、挽回計画を練る
  6. 職場で実行する最初の一歩を決める

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