「これ、やっておいて」
伝えたはずなのに、部下が動かない。動いても、言われたことしかしない。
そんな場面に心当たりのある方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
原因は、指示の内容だけでなく、「言い方の段階」にあることも少なくないと、私は考えています。同じ内容でも、相手との関係によって、届く言い方は変わります。
ガイアシステムの次世代リーダー研修では、指示の出し方を3つの段階に分けてお伝えしています。今回お伝えしたいのは、どの言い方が正しいかではありません。
相手との関係に合わせて段階を選び、一つずつ進めていくこと。そして、その土台となる信頼をどう築くかです。
指示には「命令・お願い・伺い」の3つの段階がある
はじめに、3つの段階をご紹介します。
- レベル3「やれ」=命令:強い信頼関係がある相手に
- レベル2「やってください」=お願い:関係がまだ浅い相手や、年齢が近い方・少し年上の方に
- レベル1「どう思いますか?」=伺い:さらに難しい相手に
この3段階を、相手との関係に応じて使い分けます。
どの段階が正しい、間違っているということではありません。関係ができている相手に伺いばかり使うと、かえって回り道になることもあります。
大切なのは、相手との関係を見極めて、適切な段階から伝えることです。
レベル3「やれ」|信頼が厚い相手なら通じる
強い信頼関係があり、こちらを信頼してくれている年下の部下であれば、「やれ」と伝えても問題なく動いてくれます。短い言葉で伝わるのは、それまでに信頼関係が積み上がっているからです。
レベル2「やってください」|関係がまだ浅い相手にはお願いする
関係がまだできていない相手や、年齢が同じくらい、あるいは少し上の相手には、お願いの形で伝えます。
例えば、「これは大切だと思って取り組んでいるので、〇〇さんにもぜひやってほしいんです」という言い方です。
自分がなぜそれを大切にしているのか。その理由を添えることで、お願いは相手に届きやすくなります。
レベル1「どう思いますか?」|さらに難しい相手には意見を伺う
お願いでも難しい相手には、まず意見を伺います。このとき、相手の機嫌がよいタイミングを選ぶことも大切です。
例えば、「みんなが元気にあいさつできる職場にしたいと思っているんですけど、〇〇さんはどう思いますか?」と尋ねます。
いきなり何かを求めるのではなく、まず相手の考えを聞くところから始めます。
伺いから入り、段階を一つずつ上げていく
伺いには、もう一つの役割があります。それは、相手が次の段階に進める状態かどうかを確かめることです。
「そんなの必要ない」と返ってきたら、今はお願いも命令も通りません。そういうときは、別の作戦が必要です。
例えば、職場全体の取り組みとして進めたり、ほかの方から伝えてもらったりする。相手の考えが変わるきっかけを、別の道からつくっていきます。
そして、「いいことだと思う」と返ってくるようになったら、次の機会に「よかったら一緒にやりませんか」とお願いしてみます。
いきなり命令には進みません。
少しずつ、段階的にアプローチしていくことが大切だと考えています。
上の立場の方を巻き込むときは、ビジョンから伝える
相手が上司や先輩であっても、基本的な考え方は同じです。
まずは「こんな職場にしたい」というビジョンを伝えます。そのうえで、「協力していただけませんか」とお願いする流れです。
もう一つのポイントは、誰から伝えると響くかを考えることです。自分から伝えるのが難しければ、周りの方を巻き込む方法もあります。
無理に正面から挑まなくてもよい
相手がかなり年上だったり、役職が大きく上だったりすると、難しさは増します。挑むかどうかは、ご自身で決めてよいと思っています。
私自身、20代のころに、納得できないことを上司に言い続けて苦労した経験があります。だからこそ、正面からぶつかることはお勧めしていません。
伝えるなら、相手の機嫌がよいタイミングを選ぶ。それでも難しければ、周りの力を借りる。無理に一人で解決しようとしなくてもよいのです。
年上の部下には「分かっておられると思いますが」を添える
年上の部下への声のかけ方は、多くのリーダーが悩むところです。
年上の相手に、いきなり強い段階から入るのは避けたいところです。もう一つ工夫したいのが、言葉の前置きです。
「あなたができていないから、やってください」と聞こえてしまうと、年上の方は受け止めにくくなります。
例えば、
「もう分かっておられると思いますけれども」
「もうすでにやっておられると思うんですけれども」
こうした前置きを添えてから、「一緒にやりませんか」と誘ってみます。
相手を人生の先輩として立てる言い方です。こう伝えると、「もちろんやるよ」と応じ、あとからご自身で少しずつ改善していかれる方もいらっしゃいます。
相手の立場や経験を尊重しながら、行動を促すことが大切です。
仕事ができる部下には、教えるより質問する
年下であっても、仕事ができる部下はいます。そうした相手には、コーチングを取り入れるのがよいと考えています。
やり方を一方的に教えるティーチングは、「自分はできている」と思っている方には、批判されているように聞こえてしまうことがあるからです。
コーチングでは、質問を通じて相手の考えを引き出します。
例えば、こんな問いかけです。
「あいさつって、どう思う?」
「どういうときに、どうやってするのがいいと思う?」
「こういうときも必要だと思わない?」
最終的に大切なのは、相手自身が気づいたと思えることです。それがコーチングのいちばんのメリットだと思っています。
自分で考え、決めたことは、自分で実行しやすくなります。伺いの段階がうまく働く理由も、ここにあるのだと思います。相手が自分で考えて決めるからこそ、行動が続きやすくなるのです。
どの段階でも、前提となるのは信頼|「何を」より「誰から」
ここまで3つの段階をご紹介してきましたが、どの段階を使うにしても、相手が言葉を受け取ってくれるかどうかは、信頼関係に左右されます。
私は研修の冒頭で、いつもこうお伝えしています。
「何を言われるかではなくて、誰から伝えられるか。これは全部に共通することだと思っています」
私自身も、挑戦させてくれる上司のもとで長く頑張れた一人です。
「何かあれば責任を持つから、挑戦してこい」と背中を押してくれる。そんな方の言葉だからこそ、頑張れたのだと今でも思います。
信頼は、まず「量」から
コミュニケーションは、質より先に量だと思っています。
短い時間でも声をかける。そうした機会を重ねていくうちに、コミュニケーションの質も上がっていきます。
毎日長く話す必要はありません。話せない日があってもかまいません。まずは、日々の小さなやり取りを積み重ねることです。
相手が大切にしていることを、分かろうとする
私は以前、「こうなったら嬉しいだろう」と、自分の価値観を相手に押し付けてしまうことが多くありました。
けれども、人によって大切にしていることは違います。
「分かっていないまま関わるほうが失礼だなと思うようになりました。分かろうとしてあげることが大切です」
仕事を大切にしている方もいれば、家族との時間を大切にしている方もいます。自分とは価値観が違っていても、まずは相手のことを知ろうとする。その姿勢が信頼の土台になります。
疑問は、黙らずに質問に変える
「なぜこの人は、こんなやり方をするのだろう」。
そう思ったとき、黙っているだけでは不満がたまっていきます。
疑問に感じたことは、口に出せば質問になります。もちろん、伝え方には配慮が必要です。相手を否定するのではなく、理解するために尋ねる。その言い方を身につけることも、ビジネスのスキルだと思っています。
信頼の土台は「あいさつ・リアクション・感謝・謝罪」
では、信頼はどうすれば積み上がるのでしょうか。
私は、人間関係が悪くなる根っこには、次の4つの基本があると考えています。
- あいさつ
- リアクション(話す人の目を見て、うなずく)
- 感謝(「ありがとう」を伝える)
- 謝罪(「ごめんなさい」を伝える)
この4つができていれば、その先で複雑になった問題も、案外解決しやすいものです。
反対に、こうした基本が抜けたまま仕組みや制度を整えても、なかなか効果は表れません。
礼は形、儀は心
「礼儀」は、二つに分けて考えることができます。礼は形を、儀は心を表します。
教育では、どちらから入ってもよいと思っています。
経験が浅いうちは、心の部分を理解するのが難しいこともあります。だからこそ、まずは形から入り、習慣にしていく。その後で、大切さに気づいていく方法もあります。
スポーツや武道で、まず型を徹底するのと同じです。
弊社の田近講師も同じ考えで、子どものころ、意味が分からないまま「いただきます」と言っていた経験を例に、形から入ることも悪くないと話しています。
信頼関係を築き続けるための考え方|貯金と種まき
あいさつを返してくれない方もいます。熱意を込めて伝えても、響かない方もいます。
そのたびに気持ちが上下していては、続けることが難しくなります。
そんなときにお勧めしているのが、「貯金」と「種まき」という2つの考え方です。
貯金:自分のために続ける
相手が返してくれるかどうかに関係なく、自分が大切だと思うことを続けます。これは、自分への投資です。
続けていれば、いつか自分に返ってきます。
相手のためではなく、自分のために続ける。そう考えると、相手の反応に気持ちを揺さぶられにくくなります。
種まき:相手のために続ける
相手に伝えたことが、その場ですぐに返ってくることは、ほとんどありません。
「絶対にタイムラグがあります」
種をまいても、次の日に芽が出るわけではありません。水をやり、日に当て、見守り続けて、ようやく花が咲きます。
芽が出ないからと水やりをやめてしまえば、咲くはずの花も咲きません。
「今分からなくてもいい。いつか分かってくれればいいな、という考え方でやり続けましょう」
やめたら、そこで終わります。続けることがまず大切です。そのうえで、相手に合わせて伝え方を変える工夫を重ねていきます。
段階を選んだら、次は指示の中身と伝え方
指示の言い方の段階を選んだら、次は指示の中身と伝える手段です。
ポイントは、まず全体像を伝え、細部は数字を使って具体的に伝えること。難しい指示は対面で、簡単な指示は手軽な手段で伝えること。そして、今日の仕事を確実に進めるための指示と、長い目で人を育てる教育は、分けて考えることです。
詳しくは、別のコラムでご紹介しています。
ガイアシステムの次世代リーダー研修では、ここでご紹介した指示の段階の使い分けを、ワークやロールプレイを通じて、職場で実践できる形にしていきます。
部下への声のかけ方や育成に課題を感じていらっしゃる方は、ぜひ一度ご相談ください。貴社の課題や目指す姿に合わせて、研修内容をご提案します。
明日から実践できる、部下への声のかけ方
最後に、明日から取り組めることをまとめます。
- 信頼が厚い相手には、「やれ」でも通じる
- 関係が浅い相手や同年代・少し年上の相手には、「大切だと思うので、やってほしい」とお願いする
- 難しい相手には、機嫌のよいときに「どう思いますか?」と伺う
- 伺いを断られたら、別の道からきっかけをつくり、段階を一つずつ上げる
- 年上の部下には「分かっておられると思いますが」と前置きし、「一緒に」と誘う
- 仕事ができる部下には、教えるより質問して、自分で気づいてもらう
- 信頼の土台として、あいさつ・リアクション・感謝・謝罪を大切にする
- 続けるときは、自分のための「貯金」と、相手のための「種まき」を意識する
全部を一度に実践する必要はありません。まずは、この中から一つ選んでみてください。
明日、あなたはどの段階から声をかけてみますか。
部下への指示の出し方に関するよくある質問(Q&A)
Column
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プロフィール
青木 佑介(あおき ゆうすけ)
組織変革の伴走者として現場に深く関わり、企業規模や業界を問わず柔軟な研修設計で成果を導くー
組織の課題に真正面から向き合い、個人と組織が共に成長する「共育」を力強くサポート

大学時代は、心理学・リーダーシップ論を専攻、2006年新卒で入社。人材総合コンサルタントとして、派遣・紹介・社員採用を通じた様々な企業サポートに従事。入社2年で50名が所属する大阪支社副責任者に抜擢。
2008年、同グループのNPO法人の立上げに携わり、ソーシャルビジネスや企業CSRのコンサルタントとしても活躍。2009年、神戸本社にて教育事業部を立ち上げ、事業部の責任者を担いながら、自身も人財育成・組織マネジメントコンサルタントとして、年間100社、2000名、延べ約1万2千人の人材育成に携わる。
自身の実体験から見出されたリーダーシップ論、組織マネジメント論は、数多くの経営者・リーダーから支持を受けている。最近では、従来の研修ベンダー会社では対応できない、企業の幅広いニーズに応え、社会のリーダーの輩出に数多く寄与する。
2019年より同社専務取締役に就任。2020年同グループ会社である株式会社ガイアサイン専務取締役に就任。







