ハラスメント防止研修の目的とは？成功させるコツを紹介

ハラスメントは人権問題といわれるように、個人の尊厳や人権を侵害し、肉体的にも精神的にも大きな負担を与えます。ハラスメントはする側に自覚がないことも多く、気づかないうちに周囲に悪影響を与えているケースは少なくありません。従業員がハラスメントに正しい認識を持ち、未然に防止するためには、ハラスメント防止研修がおすすめです。

ハラスメント防止研修とは

ハラスメント防止研修とは、従業員がハラスメントについて正しく理解し、職場におけるハラスメントを未然に防ぐために行う研修です。ハラスメントとは、相手に対して言動や行動などで嫌がらせを行うことをいいます。

職場では、職場内における立場の違い（優位性）だったり、従業員の価値観の理解や知識不足だったりなど、さまざまな原因でハラスメントが起こります。

ハラスメントは従業員自身に自覚がない場合も多くあるため、気づきをもたらし、未然に防ぐためにもハラスメント防止研修は重要です。

ハラスメント防止研修の実施目的

ハラスメント防止研修を実施することで、企業にはさまざまなメリットがあります。ここでは、ハラスメント防止研修の実施目的を詳しく解説します。

従業員がハラスメントの正しい認識を持つ

従業員にハラスメントの正しい認識を持たせることを目的に、ハラスメント防止研修を実施するケースがあります。

従業員の中には、ハラスメントと指導の違いを正しく理解できていない方もいるでしょう。

ハラスメント防止研修を通して、「○○という言葉はハラスメントになる」ということを学ぶと、指導とハラスメントの違いについて的確に理解できます。

また、事例だけでなくハラスメントに該当するかどうかを見極める判断能力を習得することも大切です。

指導だからといって、固定的な考えや価値観を押し付けていないか、それが部下の成長につながっているかなども研修を通して学ぶことができます。

現在の職場環境を振り返る機会を作る

ハラスメント防止研修には、従業員が日常の業務においてハラスメントに関して悩んでいることを把握し、現在の職場環境を振り返る機会を作る目的もあります。

例えば、「上司からハラスメントに該当するような扱いをされている」「上司の言動はハラスメントにあたるのでは？」などです。

また、部下の目線だけでなく、管理職や上司の中にも「この指導はハラスメントにあたるのではないか？」という悩みを持っている方もいます。

ハラスメント防止研修で事例を学ぶことで、普段の業務においてハラスメントにつながりそうな部分がないかどうかを振り返ることができます。

そして、従業員一人ひとりの意識が高まることで、ハラスメント防止や予防にもつながるでしょう。

ハラスメント防止の心構えを習得する

ハラスメント防止研修には、従業員にハラスメント防止の心構えを習得させ、ハラスメント予防につなげる目的があります。

ハラスメントは業務の範囲を超えた言動や行動によって、相手に対して不快な感情を抱かせることで生じます。

「自分には関係ない」という意識が被害の拡大を招くため、誰もが当事者になり得るという危機感を持つことが重要です。

日頃から心遣いやマナーを意識し、相手に配慮した言動を取ることが求められます。どんな立場であっても配慮を欠けば加害者になり得るため、第三者も見て見ぬふりをせず、兆候に気づいたら上司や人事に相談する姿勢が必要です。
 立場により求められる対応は異なりますが、全員が意識を持つことで、健全な職場環境が築かれます。

ハラスメント防止に効果があるコミュニケーションスキルを習得する

ハラスメント防止研修を実施する目的として、ハラスメント防止に効果のあるコミュニケーションスキルの習得が挙げられます。ハラスメントは、コミュニケーションのすれ違いや誤解が原因になっているケースも少なくありません。

たとえば、同じ内容の指導でも、人前で感情的に叱責するのと、個別に丁寧に伝えるのとでは、相手の受け取り方が大きく異なります。前者は精神的な負担を与え、場合によってはハラスメントと受け取られる可能性もあります。

研修では、相手との信頼関係を築くために有効なミラーリング（相手の言動を自然に真似る）、適切な言葉遣い、傾聴などのスキルも学びます。

これらのスキルを習得することで、相手への共感や配慮が生まれ、従業員同士が思いやりを持って接する土壌が育まれます。

良好なコミュニケーションがハラスメント防止につながることを理解し、日々の関わり方を見直す意識が重要です。

従業員同士の関係悪化を防ぐ

ハラスメント防止研修は、従業員同士の関係悪化を防ぐことを目的に実施するケースもあります。職場において円滑に仕事を進めていくうえで、従業員同士の信頼関係は重要な要素です。

信頼関係は築くのに時間がかかる一方、たった1回のハラスメントですべての信頼関係を崩してしまうような可能性もあります。信頼関係が敵対関係に発展していくと、コミュニケーションも取ることができず、険悪な雰囲気にもなるでしょう。

必要なときに報告や連絡ができず、取引先や顧客にも迷惑をかけてしまい、売上が低下することもあり得ます。そうならないためにも、ハラスメント防止研修を実施し、ハラスメントを予防して従業員同士の関係悪化を防ぐことが大切です。

ハラスメント防止研修の対象となるハラスメント

ハラスメントにはさまざまな種類があります。ここでは、ハラスメント防止研修の対象となるハラスメントの種類を紹介します。

ハラスメントは立場や性別を問わず、職場環境を悪化させる深刻な問題です。パワハラやセクハラだけでなく、妊娠・育児・人間関係に関する嫌がらせも含まれます。加害・被害どちらにもなり得ることを理解し、正しい知識と配慮ある行動が求められます。

種類	定義・特徴	具体例	背景・注意点
パワーハラスメント （パワハラ）	職務上の優位性を利用し、業務範囲を超えて肉体的・精神的苦痛を与える行為	・人前での叱責 ・休日に業務を強要 ・部下→上司のケースもあり	上下関係に基づく圧力や支配。6類型に分類され、幅広い行為が該当
セクシャルハラスメント （セクハラ）	性的言動により、相手に不快感や職場環境の悪化を招く行為	・身体への接触 ・性的発言・質問 ・意図なく言った冗談が該当することも	意図の有無に関係なく、相手がどう感じたかで判断。同性間でも該当
マタニティハラスメント （マタハラ）	妊娠・出産・育児を理由にした不当な扱いや嫌がらせ	・育休で昇進が止まる ・妊娠で仕事から外される ・退職を迫られる	制度・権利に対する理解不足や過去の経験の押しつけが原因になることも
パタニティハラスメント （パタハラ）	男性の育児休業取得などを妨げたり揶揄したりする行為	・「男なのに育休を取るの？」 ・制度利用の妨害	昔ながらの性別役割意識が背景にあり、近年急増している
モラルハラスメント （モラハラ）	倫理や道徳に反する精神的な嫌がらせ（上下関係問わず発生）	・暴言・無視・陰口 ・イベントへの排除	表面化しづらく長期化しやすい。被害者の精神的負担が大きい

ハラスメント防止研修の対象となるハラスメントの種類や具体的な内容についてはこちらの記事もご確認ください。

ハラスメント研修の主な内容

効果的なハラスメント研修には、知識のインプットだけでなく、実践的な内容を盛り込むことが重要です。

ハラスメントの定義や種類の学習

まず基本として、パワハラ、セクハラ、マタハラなど、様々なハラスメントの定義と、どのような言動が該当するのかを学びます。ここで重要なのは、法律上の定義だけでなく、従業員が「どのような行為を不快に感じるか」という視点も共有することです。

ハラスメントが与える影響の理解

ハラスメントが被害者個人に与える深刻な精神的・身体的ダメージはもちろんのこと、行為者自身や周囲の従業員、そして企業全体にどのような悪影響（生産性の低下、人材の流出、信用の失墜など）を及ぼすかを理解してもらいます。 これにより、問題を自分ごととして捉える意識が高まります。

ケーススタディを通じた実践的な学習

「上司が部下を指導する場面」「同僚同士の会話」など、職場で起こりがちな具体的な場面を想定したケーススタディを取り入れることが非常に効果的です。グループディスカッションなどを通じて、「この言動はハラスメントにあたるか？」「より良い伝え方はなかったか？」などを議論することで、実践的な判断力や対応スキルを養います。

研修方法	メリット	デメリット
集合研修	受講者同士の議論が活発になり、多様な価値観に触れられる。一体感が生まれやすい。	全員のスケジュール調整が難しく、コストがかさむ場合がある。
eラーニング	時間や場所を選ばず、個人のペースで学習できる。繰り返し学習が可能。	受講者のモチベーション維持が課題。実践的なスキルの習得には不向き。
ロールプレイング	当事者の視点を体験することで、ハラスメントへの理解が深まる。対応方法を体感的に学べる。	参加者に精神的な負担がかかる可能性がある。専門的なファシリテーターが必要。

ハラスメント発生時の対処法

もしハラスメントを受けたり、見かけたりした場合に、従業員がどのように行動すればよいかを具体的に周知します。社内外に設置されている相談窓口の場所や利用方法、相談後のフローなどを明確に伝えることで、従業員が安心して声を上げられる体制を整えます。

ハラスメント研修の企画から実施後までの具体的な手順

ハラスメント研修を効果的なものにするためには、行き当たりばったりではなく、計画的に準備を進めることが不可欠です。研修の企画から実施、そして実施後のフォローアップまで、一連の流れを4つに分けて具体的に解説します。これらの手順を踏むことで、研修の目的達成の確度を高めることができます。

手順1: 研修の企画（目的・対象者・予算の明確化）

最初のステップは、研修の土台となる企画を固めることです。まず、「なぜこの研修を行うのか」という目的を明確にしましょう。例えば、「法改正に対応するため」「管理職の意識改革を促すため」「社内のハラスメント事案の再発を防止するため」など、自社の課題に応じて目的を設定します。

次に、その目的を達成するために「誰に受けてもらうのか」という対象者を決定します。全従業員を対象とするのか、管理職や新入社員に限定するのかによって、研修の内容は大きく変わります。最後に、研修の形式（外部講師、eラーニングなど）を考慮しながら、必要な予算を確保します。

手順2: 研修内容の設計（プログラム・講師・教材の選定）

企画が固まったら、次はその目的と対象者に合わせて具体的な研修内容を設計します。講義形式で知識をインプットするだけでなく、実際の事例を基にしたケーススタディや、参加者同士で意見を交わすグループディスカッションなどを盛り込むと、受講者の理解が深まり、当事者意識を高めることができます。

プログラムが決まったら、誰が講師を務めるのか、どのような教材を使用するのかを選定します。社内に適任者がいない場合は、ハラスメント研修の実績が豊富な外部の専門家や研修サービスに依頼することも有効な選択肢です。

手順3: 研修の周知と実施

研修内容が決定したら、社内への周知を行います。単に日程を通知するだけでなく、研修の目的や重要性を経営トップの言葉で伝えるなど、従業員が前向きな気持ちで参加できるような工夫が大切です。

研修当日は、受講者が集中して学べる環境を整え、円滑な運営を心がけます。質疑応答の時間を十分に確保し、受講者の疑問をその場で解消できるようにすることも、研修の満足度を高める上で重要です。

手順4: 実施後の効果測定とフォローアップ

ハラスメント研修は、実施して終わりではありません。研修の効果を測定し、次へと繋げるためのフォローアップが最も重要です。研修後にアンケートを実施し、内容の理解度やハラスメントに対する意識の変化などを確認しましょう。

アンケート結果を分析し、研修内容の改善点を洗い出すとともに、研修で学んだ内容が職場で実践されているかを確認するための定期的な情報発信や、相談窓口の再周知といった継続的な取り組みが、ハラスメントを許さない組織文化を根付かせる鍵となります。

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ハラスメント防止研修を成功させるコツ

ハラスメント防止研修は、目的なく行っても高い効果は期待できません。ここでは、ハラスメント防止研修を成功させるコツを紹介します。

目的を明確化する

ハラスメント防止研修を成功させるためには、「誰に対して」「何のために」などの目的を明確化させることが大切です。

例えば、子育てをしている従業員が安心して働ける環境を作ることを目的とするなら、マタハラやパタハラのハラスメント防止研修を実施します。最終的には、すべての従業員がハラスメントに対して理解し、自主的に予防や職場環境の改善に取り組めるようになるのが理想です。

アンケートを実施する

ハラスメント防止研修を実施する際は、自社にどのような課題があるかを明確にするためにアンケートを実施するとよいでしょう。

アンケート調査は、ハラスメントの有無や従業員の意識の把握に加えて、働きやすい環境づくりについて考える貴重な機会にもなります。また、アンケートを実施する際には対象者が偏ることのないように注意し、正確な実態把握をするために匿名での実施が効果的です。

従業員の相談窓口がある場合、アンケートと合わせて相談窓口も紹介しましょう。

当事者意識を持たせる

ハラスメント防止研修を実施する際には、従業員ごとにプログラムの設定を行い、役職に合わせて当事者意識を持たせることが大切です。

研修内容に対して他人ごとに感じてしまうと、従業員の参加意欲が低下する可能性があります。研修は座学だけでなく、グループワークや講師への質疑応答の機会を設けるなど、従業員が積極的に参加できる体制もつくりましょう。

当事者意識を持たせることで、ハラスメントを許さないという風土を組織内で作ることにもつながります。

まとめ

この記事では、ハラスメント防止研修の概要や実施目的、成功させるコツを紹介しました。職場にはパワハラ、セクハラ、マタハラ、パタハラ、モラハラなど、さまざまなハラスメントの問題があります。

企業は、職場のハラスメントに対して防止措置をとらなければなりません。その手段として、ハラスメント防止研修の実施は効果的な方法です。

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