医療従事者向けのハラスメント対応マニュアルの作成方法は?必須項目や予防策を紹介

近年、医療現場では患者やその家族、あるいは職員間でのハラスメントが深刻な問題となっています。

ハラスメントは、被害を受けた医療従事者の心身に大きな負担をかけるだけでなく、医療の質の低下や離職にも繋がりかねません。

このような状況に対応するため、各医療機関では、組織としてハラスメントに毅然と対応する姿勢を示し、具体的な対応手順を定めたマニュアルの整備が急務となっています。

 

医療従事者を守り、安全な職場環境を構築するためのハラスメント対応マニュアルの作成ポイントを、必須項目や対応フローを交えながら分かりやすく解説します。

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医療現場で深刻化するハラスメントの現状

医療現場は、人の生命や健康に関わる特殊な環境であるため、様々なハラスメントが発生しやすい状況にあります。

 

職員が安心して働くためには、まずどのようなハラスメントが存在し、それがどのような影響をもたらすのかを正確に理解しましょう。

医療従事者が直面するハラスメントの種類

医療従事者が直面するハラスメントは、大きく分けて「ペイシェントハラスメント」「職場内のハラスメント」の2つに分類されます。

それぞれの具体例を以下の表にまとめました。

ハラスメントの分類具体的な行為の例
ペイシェントハラスメント・殴る、蹴る、物を投げつけるなどの身体的暴力
・「殺すぞ」「SNSに晒す」といった精神的暴力(脅迫)
・大声で怒鳴る、執拗なクレームを入れるなどの威圧的な言動
・不必要な身体接触や性的な発言をするセクシュアルハラスメント
・長時間居座る、業務時間外の対応を強要するなどの拘束的な言動
職場内のハラスメント・職務上の地位を利用したパワーハラスメント
・性的な言動によるセクシュアルハラスメント
・妊娠・出産・育児休業などに関するマタニティハラスメント

これらのハラスメントは、医師、看護師、介護士、薬剤師、医療事務など、職種を問わず全ての医療従事者が被害者となり得ます。

ハラスメントが医療現場にもたらす影響

ハラスメントは、被害を受けた個人の問題だけでなく、医療機関全体に深刻な影響を及ぼします。

まず、被害を受けた職員は、精神的なストレスからうつ病などの精神疾患を発症するリスクが高まります。

また、仕事へのモチベーションが低下し、最悪の場合、離職に繋がることも少なくありません。職員の離職は、医療現場の人手不足をさらに深刻化させ、残された職員の負担を増大させるという悪循環を生み出します。

その結果、医療サービスの質の低下を招き、患者に提供されるべき医療の水準を維持することが困難になる可能性もあります。

なぜ医療機関にハラスメント対応マニュアルが必要なのか?

ハラスメント対策として、なぜマニュアルの作成が重要なのでしょうか。

その理由は、職員個人を守るためだけでなく、組織全体のリスクマネジメントや医療の質を維持する上で不可欠だからです。

職員の安全と心の健康を守るため

ハラスメントが発生した際、対応が個々の職員に委ねられてしまうと、精神的な負担が大きくなり、対応も場当たり的になりがちです。

マニュアルによって組織としての統一した対応方針を明確にすることで、職員は一人で抱え込むことなく、安心して対応にあたることができます

これは職員のメンタルヘルスを守り、安全な職場環境を確保する上で必要不可欠な基盤となります。

組織としての法的責任とリスク管理

事業主には、労働者の生命や健康などを危険から保護するよう配慮すべき「安全配慮義務」があります 。

ハラスメントを放置すれば、この義務違反を問われ、損害賠償責任を負うリスクがあります。

マニュアルを整備し、適切な対応を行うことは、こうした法的なリスクを低減させる上で重要です。また、組織としてハラスメント対策に真摯に取り組む姿勢を示すことは、医療機関としての社会的信頼を維持することにも繋がります。

質の高い医療提供を維持するため

職員がハラスメントの恐怖やストレスに晒されている状態では、患者対応に集中することができず、医療ミスが発生するリスクも高まります。

職員が安心して働ける環境を整備することは、結果として患者一人ひとりへのケアの質を高め、安全で質の高い医療サービスを提供し続けるための土台となります。

マニュアルの存在は、職場全体の規律を保ち、安定した医療提供体制を維持するために不可欠です。

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ハラスメント対応マニュアルに盛り込むべき7つの必須項目

実効性のあるハラスメント対応マニュアルを作成するためには、いくつかの重要な項目を網羅する必要があります。

 

ここでは、厚生労働省や日本看護協会の指針を参考に、盛り込むべき7つの必須項目を解説します。

7つの必須項目

組織の基本方針とハラスメントの明確な定義

マニュアルの冒頭で、「当院は、いかなるハラスメントも許さない」という組織としての毅然とした姿勢を明確に宣言します。

その上で、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、ペイシェントハラスメントなど、マニュアルが対象とするハラスメントを具体的に定義し、どのような行為が該当するのかを明記します。

これにより、職員全員がハラスメントに対する共通の認識を持つことができます。

7つの必須項目

対象となるハラスメントの範囲

マニュアルが適用される対象者を明記します。

正規職員だけでなく、パート、派遣職員、実習生など、院内で働くすべての人々が対象であることを示します。

また、ハラスメントの発生場所が院内だけでなく、懇親会や出張先なども含まれることを記載し、包括的な対策であることを明確にします。

7つの必須項目

相談・苦情に対応する窓口の設置

職員が安心して相談できる窓口の設置は、マニュアルの中核をなす項目です。

人事部門や看護部などに相談窓口を設置し、担当者の名前と連絡先を明記します。

相談者のプライバシーが厳守されること、相談したことによって不利益な扱いを受けないことを明確に記載し、相談しやすい環境を整えることが求められます。

7つの必須項目

事実関係の調査に関する手順

相談が寄せられた後の、迅速かつ公正な調査手順を定めます。

相談者と行為者の双方から事情を聴取すること、必要に応じて第三者からも話を聞くことなどを具体的に記載します。

調査担当者は中立的な立場で対応し、客観的な事実確認に努めることを徹底します。

7つの必須項目

ハラスメントへの措置とプライバシー保護

調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合の対応を定めます。

行為者に対しては、就業規則に基づく懲戒処分(戒告、減給、出勤停止など)を行うことを明記します。

また、被害者の心のケアや、必要に応じた配置転換などの措置についても記載します。

調査から措置に至る全過程で、関係者のプライバシー保護を徹底することも考慮しましょう。

対応事項具体的な内容
行為者への措置就業規則に基づき、戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇などの処分を検討・実施する。
被害者への配慮産業医やカウンセラーによるメンタルヘルスケアを提供する。
必要に応じて配置転換などを実施する。
プライバシー保護相談内容や調査で得られた個人情報は、関係者以外に漏洩しないことを徹底する。
7つの必須項目

再発防止策の具体的な取り組み

ハラスメントの再発を防ぐための具体的な取り組みを記載します。

全職員を対象としたハラスメント研修の定期的な実施や、院内報やポスターによる啓発活動などが挙げられます。

管理職には、部下の言動に注意を払い、ハラスメントの兆候を早期に発見する役割があることも明記します。

7つの必須項目

患者・家族からのハラスメントへの特化した対応

ペイシェントハラスメントは、職場内のハラスメントとは異なる対応が求められるため、独立した項目として記載することが望ましいです。

対応の基本方針として、「職員個人で対応せず、組織として対応する」ことを明確にします。

暴力や脅迫など悪質なケースでは、ためらわずに警察へ通報する手順も定めておきます。

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【手順解説】ハラスメント発生時の具体的な対応フロー

マニュアルには、実際にハラスメントが発生した際の具体的な対応フローを図や箇条書きで分かりやすく示しましょう。

 

これにより、有事の際に誰でも冷静かつ迅速に行動できるようになります。

手順

相談窓口での初期対応と記録

相談を受けた担当者は、まず相談者の話を傾聴し、精神的な安定を図ることを最優先します。

その上で、いつ、どこで、誰から、どのような行為を受けたのかを具体的に聴取し、時系列に沿って正確に記録します。記録は、その後の調査において重要な証拠となります。

手順

中立的な立場での事実確認と調査

相談窓口は、相談者からの申し出に基づき、速やかに行為者や第三者からのヒアリングを実施します。

高圧的な態度にならないよう配慮し、あくまで中立的な立場で客観的な事実を収集します。

双方の主張が食い違う場合は、メールの履歴や目撃者の証言など、客観的な証拠の有無を確認します。

手順

対応策の検討と実行

調査で事実が確認された場合、マニュアルに基づき行為者への処分や被害者へのケアを検討します。

対応策は、人事部門、担当部署の責任者、院長などが連携して決定します。

ペイシェントハラスメントの場合は、患者への警告や、場合によっては診療契約の解除、警察への通報といった毅然とした対応を取ることもあります。

手順

当事者へのフォローアップと再発防止

措置を実施した後も、被害を受けた職員の精神的なケアを継続します。

また、行為者に対しても、自身の言動を振り返り、改善するための指導を行います。

事案を教訓として、何が問題だったのかを組織全体で共有し、具体的な再発防止策に繋げていくことが求められます。

ハラスメントを未然に防ぐための予防策

ハラスメントは、発生後の対応だけでなく、未然に防ぐための取り組みが求められます。

 

職員が安心して働ける職場文化を醸成するための予防策を紹介します。

職員に向けた定期的な研修の実施

全職員を対象に、ハラスメントに関する研修を定期的に実施します。

どのような行為がハラスメントに該当するのか、ハラスメントがもたらす影響、そして発生時の対応方法などを学び、職員全体の意識を高めることが目的です。

特に管理職には、リーダーシップとコミュニケーションに関する研修を行い、良好な職場環境を築く役割を担ってもらいます。

ポスター掲示による院内への啓発活動

院内の休憩室や廊下など、職員や患者の目に付きやすい場所に、ハラスメント防止を呼びかけるポスターを掲示します。

「暴力・暴言は許しません」「録音・録画は禁止です」といった具体的なメッセージを発信することで、ハラスメントを許さないという組織の姿勢を院内外に明確に示すことができます。

啓発活動の例期待される効果
院内ポスターの掲示ハラスメントを許さないという組織の明確な意思表示となり、抑止力に繋がる。
院内報での注意喚起定期的に情報発信することで、職員の意識を風化させない。
入院・受診時の説明迷惑行為があった場合は診療を制限する可能性があることを伝え、予防線を張る。

コミュニケーションの活性化と職場環境の改善

日頃から職員間のコミュニケーションが円滑で、風通しの良い職場は、ハラスメントが起きにくいと言われています。

定期的なミーティングの開催や、上司と部下の1on1ミーティングなどを通じて、職員が気軽に相談できる関係性を築くことが大切です。

また、過重労働や人員不足といった労働環境の問題がハラスメントの温床になることもあるため、組織として職場環境の改善に継続的に取り組む姿勢が求められます。

医療従事者向けのハラスメント対応マニュアルに関するよくある質問(Q&A)

医療機関でハラスメント対応マニュアルはなぜ必要ですか?

医療機関では患者・家族対応の特性から、暴言やカスハラが発生しやすく、従業員の安全確保と健全な労働環境の維持が重要です。

対応マニュアルを整備しておくことで、初動判断が統一され、事態の悪化を防ぎながら適切に対処できます。

また、院内で共通ルールが共有されるため、現場負担を減らし、継続的なリスク管理が可能になります。

医療機関でのハラスメント対応マニュアルを作成する上で、ポイントはありますか?

ハラスメント対応マニュアルを作成する際は、まず院内の基本方針を明確にし、行為の定義と職場で起こり得る具体例を記載することが重要です。

あわせて、誰でも利用しやすい相談窓口と、現場が迷わず動ける対応手順を整理します。

さらに、事後の検証プロセスを設け、再発防止につながる改善策まで一体で設計することがポイントです。

医療現場ならではのハラスメントリスクにはどのようなものがありますか?

医療現場では、患者・家族からの過度な要求や暴言によるペイシェントハラスメントが発生しやすく、さらに上下関係の強い構造から職務上のハラスメントも起こりやすい状況があります。

加えて、慢性的な人手不足により業務負荷が高まり、些細な行き違いがトラブルに発展しやすい点もリスクです。

こうした特性を踏まえ、現場に即した予防策や対応体制の整備が欠かせません。

医療現場でのハラスメントを未然に防ぐため予防方法はありますか?

医療現場でハラスメントを予防するには、まず組織として方針の明確化を行い、行動基準や境界線を全職員に共有することが重要です。

また、対応マニュアルを整備し、実務を想定した研修で現場対応力を高めます。

さらに、早期相談を促す相談体制の整備や、暴言・トラブルの抑止としてカメラの活用を検討することで、未然防止の精度が向上します。

ハラスメントの対応マニュアルを医療現場で周知・浸透させるためにはどうしたらいいですか?

医療現場でハラスメント対応マニュアルを浸透させるには、トップメッセージで方針を明確に示し、掲示物や朝礼で定期的に周知することが重要です。

さらに、実践的な研修やロールプレイを通じて具体的な行動を体得させることで理解が深まります。

こうした取り組みは、ガイアシステムオーダーメイド研修を活用することで、マニュアル作成から組織に合った定着支援が可能です。

まとめ

医療従事者をハラスメントから守り、安全な職場環境を確保するためには、実効性のある対応マニュアルの作成と運用が不可欠です。

マニュアルには、組織の基本方針、具体的な対応フロー、そして再発防止策を明確に定め、全職員で共有します。

 

この記事で解説したポイントを参考に、自院の状況に合わせたマニュアルを作成し、全ての職員が安心して働ける職場づくりを進めてください。

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